概要

経済産業省が2018年9月に、日本のDX化の指南にもなる「DXレポート」を出しました。もう4年も前のレポートなのに、今まで読んだことがありませんでした。今日はあることが切っ掛けに読むことができました。 すごくいいレポートなので、特に印象深かったものをメモに残しておきます。

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DXレポート

~IT システム「2025 年の崖」の克服と DX の本格的な展開~

出された背景

  • あらゆる産業
  • 新たなデジタル技術を利用してこれまでにないビジネス・モデルを展開する
  • ゲームチェンジが起きつつある
  • 各企業は、競争力維持・強化のために
  • DX(Digital Transformation)推進していくことが死活問題

DXの定義についてこのレポートでは次のように

企業が外部エコシステム(顧客、市場)の破壊的な変化に対応しつつ、内 部エコシステム(組織、文化、従業員)の変革を牽引しながら、第3のプラ ットフォーム(クラウド、モビリティ、ビッグデータ/アナリティクス、ソ ーシャル技術)を利用して、新しい製品やサービス、新しいビジネス・モデ ルを通して、ネットとリアルの両面での顧客エクスペリエンスの変革を図る ことで価値を創出し、競争上の優位性を確立すること

DX推進の現状と課題

ビジョンと戦略が不足のまま、経営者から「AI を使って何かできないか」といった指示が出され、PoC が繰り返されるものの、ビジネスの改革に繋がらないといったケースも多いとの指摘がなされている。

なるほど、、どこか聞いたことがあるような話ですね。

既存システムの現状と課題

レガシーシステムが足かせになっている企業が多い。

  • 約8割の企業が老朽システムを抱えている
  • 約7割の企業が、老朽システムが、DXの足かせになっていると感じている

その理由として、以下のデータがある file

既存システムの問題点を深堀りすると

  • 既存システムのブラックボックス化
  • 不十分なマネジメントによるレガシー化の繰り返し
  • システムが機能している限り放置される恐れ

とてもリアリティな話です。

既存システム問題点の背景

  1. 事業部ごとの最適化を優先し、全社最適に向けたデータ利活用が困難に
  2. ユーザ企業とベンダー企業の関係がレガシー化の一因
  3. 有識者の退職等によるノウハウの喪失
  4. 業務に合わせたスクラッチ開発多用によるブラックボックス化

上記3はどの国も企業も普通にありますが、縦割組織が多い、ベンダーに委託開発が多いのは日本の特徴かもしれないなと思いました。

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既存システムがブラックボック化になりやすい原因分析はとても興味深い:

  • 国内にはスクラッチ開発を好むユーザ企業が多い
  • 現状業務にぴったり合った、実は過剰品質となっているシステムを求める声が国内企業には強い
  • 日本の場合、汎用パッケージを導入した場合も、自社の業務に合わせた細かいカスタマイズを行う場合が多い
  • 成長時代に品質管理手法を積極的に取り入れ、現場力に磨きをかける「改善活動」に注力してきたことが、システム改修による複雑化の一因ともなってきた
  • 「改善活動」からのシステム改修はそのときの環境条件やユーザの利便性を追求したものが多く、「過剰サービス」「過剰品質」の要因ともなってきた

作る側も使う側も、細かい所を気にする人が多い、ということでしょうか。うむうむ、確かに経験上当てはまることが多い。 また、ベンダーにノウハウを寄せすぎていることが、日本企業に多い現象ですね。

問題解決は難しい

  • ユーザ企業にとり、レガシー問題は潜在的。
    日常的に活用できている間はレガシーであることは自覚できない。HWやSWの維持限界がきたときにはじめて発覚する
  • レガシー問題の発見はベンダー企業にも容易ではない。
  • モダナイゼーションプロジェクトの起案の難しさ。
    現状の業務を大きく変更するわけではないので、システムの価値は高められるが、経営者から見て価値が見えにくい。

KGIやKPIへの貢献はなかなかみえにくいので、上の人を説得するのが難しい。

既存システムの運用保守に資源が流れてしまう

  1. IT 関連費用のうち 8 割以上が既存システムの運用・保守に充てられている。
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これには驚きました。 また、日本企業と米国企業と比べて、「業務効率化 / コスト削減」のための「守りの IT 投資」に重点が置かれ、「攻めの IT 投資」が進んでおらず、バリューアップに向けた投資を進められていない実態があるそうです(下図)。

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  1. 長期的な運用・保守費の高騰が「技術的負債」(Technical Debt)に。

ユーザ企業における経営層・各部門・人材等の課題

経営者の危機意識とコミット

  • DXの必要性は理解しているが、
  • ビジネス・モデルを変革すべく、新たなデジタル技術を活用できるように既存システムを刷新する判断を行うユーザ企業はまだ少ない。
  • 判断を行っている企業の経営層の強いコミットがある
  • 企業内が一枚岩でないケースも多く、現場の反対を押し切る経営のトップダウンが必要
  • 米国ではCEOが取締役会で「IT システム・サイバーセキュリティ」含むガイドラインを守れるかどうかが見られる。CIOに丸投げするようでは価値が問われる。
  • 日本ではCEOが、取締役会に対して、情報システムについてどこまで自らの言葉で語れているか?

CIOや情シス部門

米国企業のCIOは世の中に有名なベンダーを使うよりも、知られていないが新たな価値提供できるベンダーを使って結果を出すことが評価される環境。

日本企業のCIOは

  • 有名なベンダー企業に頼んだから大丈夫という考えに陥りがち。
  • 選定責任は不明確で、ベンダー企業側の責任となりがち。 →米国では、開発を主導するのが CIO の責務であることからCIO責任という考え方が定着。
  • 複数のベンダーの提案を受けて、自社のビジネスに適したベンダを判断するより、これまで付き合いのあるベンダーからの提案をそのまま受け入れてしまいがち。

事業部門と情シス部門の役割

  • IT投資を行う目的は、システムが開発できたかではなく、ビジネスがうまくいくようになったかどうかで判断されるべき。
  • 事業部門がPJのオーナーシップを持って、仕様決定受入テスト等を実施していく必要あり。

ユーザ企業のIT人材不足

  • ベンダー企業に頼らざるを得ない。
  • 老朽化したシステムの運用・保守ができる人材の枯渇。
    (COBOLが分かる人材が典型的な問題)
  • 困難となる IT エンジニアの教育・確保。

ユーザ企業とベンダーとの関係

  • 要件定義から丸投げが多い。
    アジャイル開発の手法を推進しようとしても無理がある。
  • 責任関係
    請負契約 と 準委任契約。
  • アジャイル開発における契約関係上のリスク
    要求仕様の不明確状態に適したアジャイル開発に沿った契約形態が整備されていない。
    →請負契約:仕様不明確のままでは開発を進めにくい。 →準委任契約:ベンダー側により良い開発のインセンがないように見えるユーザ企業の不安。

情報サービス産業の抱える課題

日本ではベンダーのIT技術者の数が情報サービス産業全体の約7割を占めしている。 file

グローバル・クラウドが急成長している

  • 国内のサーバ出荷額が急減する中、DC事業は着実な成長を継続。
  • グローバルクラウドプレーヤーが国内のDC事業を席巻することが危惧される。
  • 中国・台湾の安価なサーバの台頭もあり、国内サーバ市場の縮小が加速。

ベンダーにおけるスキルシフトの必要性

  • SoE = Systems of Engagement
    顧客接点を高度化するシステムは、要件が常に変化することが前提。
  • SoR = System of Records
    従来からの企業内の業務システム、最初に要件が厳密に決まることを前提。
  • エンジニアのスキルシフトが必要
    • 要件変更を前提とした開発への対応ができるアジャイル開発の活用。
    • システムを小さな機能に分割し、短いサイクルでリリースができる。
    • API/Web API ベースの疎結合モジュール化されたサービスの利用による、大規模システムのコストとリスクの大幅な圧縮と変化への適用性の向上。

ユーザの開発部門においては、小さい単位で多くリリースしていくKPIを求めていくことに価値がありいます。

ビジネス・モデルの転換の必要性

ベンダーは顧客が提示する仕様に合わせたシステム開発の受託者から、新しいビジネスモデルを顧客と一緒に考えるパートナーへの転換が求められている。

DXを推進しない場合の影響

既存システムの残存リスク

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既存 IT システムの崖(2025 年の崖)

複雑化・老朽化・ブラックボックス化した既存システムが残存した場合、2025 年までに 予想される IT 人材の引退やサポート終了等によるリスクの高まり等に伴う経済損失は、 2025 年以降、最大12兆円/年(現在の約3倍)にのぼる可能性がある。

  • ユーザ企業側
    • DXを実現できずデジタル競争の敗者にはる可能性。
    • 多くの技術負債を抱えるまま業務基盤の維持・継承が困難。
    • サイバーセキュリティ事故や災害のリスクが高まる。
  • ベンダー側
    • 既存システムの運用保守にリソースを割かざるを得ない
    • 成長領域で主戦場のクラウドベースサービスの開発・提供を攻めできない
    • 人月商売の多重下請構造から脱却できないと予想。

file (出典:DXレポートP27)

直近でいうと、2024年固定電話網PSTN終了による、EDIの伝送インフラ(専用線やVPNなど)の変更対応が求められるので、仕事での作業が発生しますね。

対策の検討

ここからは、だいぶ端折っていきます。 file (出典:DXレポートP32)

これは開発現場でも結構使えそうと思いました。

情報資産の「見える化」が重要である。

ユーザ企業とベンダー間における契約

file (出典:DXレポートP46)

DX人材の育成・確保

  • ユーザ企業に求められる人材
    • CDO(Chief Digital Officer):システム刷新をビジネス変革につなげて経営改革を牽引できるトップ人。
    • デジタルアーキテクチャ:業務内容にも精通しつつ IT で何ができるかを理解し、経営改革を IT システムに落とし込んで実現できる人材。
    • AIの活用等ができる人材、データサイエンティスト。
  • ベンダーに求められる人材
    • 受託開発への過度な依存から脱却し、自社の技術を活かして、アプリケーション提供型のビジネスの成長戦略を描き、実現できる人材。
    • ユーザ起点でデザイン思考を活用し、UXを設計し、要求としてまとめあげる人材。
    • スピーディーに変化する最新のデジタル技術を詳しく理解し、業務内容にも精通する IT エンジニア。

IT システム刷新の見通し明確化

file (出典:DXレポートP49)

まとめ

日本では情報システム利用の歴史がながく、レガシーになっているシステムが多い。また、情報サービス産業の特別な構造(ベンダー委託の依存が強く、ユーザ企業のIT技術者は全体の約3割しかない)や、経営者がITシステムに対する関心度、危機意識とコミットメントが米国など先進国よりも薄い等、複数の要因により、DX推進のスピードが思ったより遅い現状があるかと思っております。

銀の玉の解決策はないが、経営者による思い切った判断と、IT人材に対するスキルシフトやスキルアップに専念できるための環境も与えること。先進技術にシフトし、既存レガシーシステムから脱出することにより、投資効率を高めることができます。

資料をいろいろ引用させて頂き、ありがとうございましたm(_ _)m